日本語文法学会論文賞

日本語文法学会論文賞 規程

第3回日本語文法学会論文賞(2020年度)
「副詞『決して』の意味―条件的関係の不成立と非一回性―」20巻2号(2020年9月)
大塚貴史氏
[授賞理由]
 本論文は,従来の研究において「不利な前提」「部分否定」「強調」などと個別に指摘されてきた現代日本語の副詞「決して(~q)」の意味について,「条件的関係」の観点から統一的に分析を加えたものである。「(pでも)決して~q」は,(1)基本的に,裏に持つ「pならばq」という「条件的関係」が成立せず,非一回的に~qであることを表すこと,(2)その中で~qが「話し手の基準」に照らした判断である場合,「話し手の基準」以外の「基準」に照らした判断では(一般的に)qが成立する可能性があるということを語用論的に含意し,「qとは言い切れない」という「部分否定」の意を生じ得ること,(3)また,pが「不定」である場合,「決して~q」は「どんな条件でも~q」ということを表し,語用論的に「強調」の効果を生じ得ること,の3点を主張している。
 「決して」が持つ「意味」と「文脈における語用論的な効果」を区別し,前者の意味から後者の効果が生じる要因を統一的な分析枠のもとで明らかにすることによって,研究を大きく発展させた。先行研究の検討は丁寧であり,記述の方法も客観的で,反証可能なかたちで提示されている。文法的な語彙項目の意味研究のひとつのモデルを示しており,学界に与える影響も大きい。以上の理由により,本論文を,日本語文法学会論文賞にふさわしいものと判定した。

 

第2回日本語文法学会論文賞(2019年度)
「到達構文としての名詞文―動的事態指向の修飾表現と静的表現との結合事例―」19巻2号(2019年9月)
久保田一充氏
[授賞理由]
 本論文は、「*もうすぐ月が赤い」のように一般に動的事態指向の修飾表現と共起しない静的表現に対して、「もうすぐ私は20歳だ」のように適格になる事例を、到達の動的意味をもつ「到達構文(所要表現 Nだ)」ととらえ、その成立には、「もうすぐ」などの所要表現が事態の成立(スケール上のNが表す地点への到達)を導くものであること、および、「20歳」などの名詞が語句レベルで到達点を提示できることが、関与的であることを論じたものである。
 これまであまり取り上げられることのなかった事象に注目し、「発見構文」など他の構文とも比較しながら、詳細に分析を加えている。従来の枠にとらわれない動・静の文法という視点も、今後の発展性が見込まれ、高く評価される。以上の理由により、本論文を、日本語文法学会論文賞にふさわしいものと判定した。

 

「名詞『路線』の助数詞への用法拡張―数量詞の意味的機能の観点から―」19巻2号(2019年9月)
田中佑氏
[授賞理由]
 本論文は、名詞「路線」がどのような過程を経て助数詞へと用法を拡張したのかを、「-店」などの助数詞化のプロセスと比較しつつ分析したものである。数詞と結合した「路線」は、数量詞として統語的分布を拡張するなかで名詞的用法から機能的用法へと用法を拡張するとともに、それに付随するかたちで助数詞へと展開するという一定のルートがあることを解明している。
 取り上げた事象は小さなものに見えながら、名詞から助数詞への拡張の一般的なプロセスを提示しており、他のデータや他の助数詞の発達プロセスの分析による検証、拡張ルートのさらなる精緻化など、今後の研究の展開が期待される。調査方法にも工夫があり、分析方法も堅実である。以上の理由により、本論文を、日本語文法学会論文賞にふさわしいものと判定した。

 

第1回日本語文法学会論文賞(2018年度)
「現代日本語共通語における終助詞ガ,ダ」18巻2号(2018年9月)
大江元貴氏
[授賞理由]
 本論は、現代日本語共通語における「だめでしょうガ」「嫌だよーダ」のような「ガ」「ダ」を終助詞として位置づけ、これらが、文に特定の心的態度を「付加」するのではなく、文に含まれる心的態度を「顕示」するという機能を持つことを主張したものである。従来あまり議論されてこなかった現象に注目し、終助詞の意味類型を新たに提案した点が評価される。今後さらに議論を展開させる余地は残されているが、それも本論の新奇性と発展性の現れとして評価できる。以上から、日本語文法学会論文賞に値するものとする。