「言語とジェンダー研究」から見えてくる文法の政治性

中村 桃子 (関東学院大学)

 「文法」という概念には,特定の言葉づかいに「文法的に正しい」という価値を与える権威が与えられている。英語では性が不定の三人称単数が先行詞の場合に男性形のheを総称的に用いることが「文法的に正しい」とされている。しかし,「言語とジェンダー研究」は,女も含んだ意味で用いられた総称的heが男の意味に解釈される傾向が強いばかりか,総称的heの文法規則の成立が性差別イデオロギーに基づいていることを明らかにした。ところが,「文法的に正しい」という言語イデオロギーには,その背後にある支配構造 (この場合は,性差別) を隠蔽し,イデオロギーから自由な規則に過ぎないと見せかける効果があるために,私たちは自ら進んで「文法的に正しい」言葉づかいをするように促される。一方,何が「文法的に正しい」のか,また,「文法的正しさ」にどのような価値を与えるかは,常にディスコースによって変革される可能性を有している。


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Last update: 2003/10/28