使役の意味を表わす動詞suruは, 目的格名詞句と形容(名)詞からなる小節を伴うことがある一方で(「美容師が[花子を{きれいに/美しく}]した」, 以下肯定小節), 目的格名詞句(NP-o)と否定要素nakuを含む述部を伴うこともある(「農薬を強めて作物をそだたなくする」, 以下否定小節)。本発表は, 否定小節の統語的特徴について検討し, (a) NP-oが否定小節主語であること, (b) NP-oが主節目的語位置に繰り上がること, (c) 否定小節が, 形容(名)詞句を形成する肯定小節とは異なり, 無形のTを伴うTPを形成することを示した。また否定小節中に現れる主格名詞句(NP-ga)にも注目し(「農薬を強めて作物がそだたなくする」), 否定小節主語であるNP-gaが否定小節中で上述の無形Tによって主格を付与されるとの提案を行った。最後に, 肯定小節と否定小節の間の範疇上の相違を, 否定標識に関わる普遍的原理と句構造の最小化に関わる経済性原理より導出する試案を提示した。